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ビフィズス菌の作る酢酸による腸管出血性大腸菌O157の感染抑止

理化学研究所や東大など、ビフィズス菌の作る酢酸による腸管出血性大腸菌O157の感染抑止を発見
ビフィズス菌の作る酢酸がO157感染を抑止することを発見
−善玉菌(プロバイオティクス)の作用機構の一端を解明−

 

 

 

◇ポイント◇
 ・ビフィズス菌の産生する酢酸が、腸の上皮細胞のO157に対する抵抗力を増強
 ・ビフィズス菌のゲノム解析から、酢酸産生亢進につながる新規遺伝子を発見
 ・善玉菌(プロバイオティクス)による健康増進や予防医学への応用に期待

 

 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京大学(浜田純一総長)、公立大学法人横浜市立大学(本多常高理事長)は、ビフィズス菌(※1)による腸管出血性大腸菌O157(※2)の感染抑止には、ビフィズス菌が産生する酢酸が腸管上皮細胞に作用することが非常に重要で、この作用がなければ感染に抵抗性を持たないことを、マウス実験で世界で初めて明らかにしました。理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫系構築研究チーム/横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科(荻原保成研究科長)免疫生物学研究室の大野博司チームリーダー/客員教授、福田真嗣研究員/客員研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科(大和裕幸研究科長)附属オーミクス情報センターの服部正平教授を中心とする共同研究グループ(※3)の研究成果です。

 

 ヒト腸内常在細菌の一種であるビフィズス菌は、プロバイオティクス(※4)、いわゆる善玉菌の1つとして、私たちの体に良いといわれています。その一例として、無菌マウス(※5)に前もってビフィズス菌を投与しておくと、その後のO157による感染死を抑止できることが知られていました。しかし、その分子メカニズムは不明のままでした。今回、研究グループは、最新のマルチオーミクス手法(※6)、すなわちゲノミクス(※7)、トランスクリプトミクス(※8)、メタボロミクス(※9)を駆使した統合解析手法により、ビフィズス菌が産生する酢酸が腸粘膜上皮(※10)の抵抗力を増強することで、マウスがO157による感染死を免れることを明らかにしました。また、酢酸合成を亢進するビフィズス菌の遺伝子の同定にも成功しました。

 

 この結果は、マルチオーミクス手法が複雑な宿主−腸内細菌相互作用の解析に効果的であることを証明するとともに、プロバイオティクスの作用メカニズムの一端を初めて明らかにしたものです。プロバイオティクスを健康増進や予防医学へ応用することにより、社会への還元が期待されます。

 

 本研究成果は、科学雑誌『Nature』(1月27日号)に掲載されます。

 

 

1.背景
 ヒトをはじめとする動物の腸内には、宿主である動物の体を構成する細胞の数よりもはるかに多い、100兆個にも及ぶ腸内常在細菌叢が存在するといわれています。腸内常在細菌叢と宿主細胞の相互作用は、宿主の健康や病的状態と密接に関係すると考えられており、腸内細菌叢の中には、ビフィズス菌などのように体に良いとされる菌もあります。その作用の1つとして、病原菌による感染を抑制する効果が知られていますが、肝心なその作用の分子メカニズムは不明のままでした。そこで研究グループは、ビフィズス菌が腸管出血性大腸菌O157によるマウス感染死を予防するという実験モデルを用いて、ビフィズス菌による感染死予防効果の分子メカニズムを明らかにすることに挑みました。

 

 

2.研究手法と成果
 無菌マウスにO157を104個ほど経口感染させると、マウスは1週間ほどで感染死します。しかし、ある種のビフィズス菌(以下、予防株)をあらかじめ経口投与しておくと、マウスはその後のO157経口感染に抵抗性を持ち、感染死は起きません。一方、あらかじめ経口投与しても、その後のO157感染死を予防することができないビフィズス菌(以下、非予防株)も存在します(図1)。この時、マウスの腸内のO157の菌数や、O157が産生し感染死の直接の原因となるシガ毒素の量は、予防株投与群と非予防株投与群とで違いが見られません。このことから、予防株が直接O157の増殖やシガ毒素産生能を抑制するのではなく、宿主の腸管上皮へ作用することで、間接的にO157感染死を予防していると予想しました。実際、予防株投与群と非予防株投与群で、O157投与後のマウス腸粘膜上皮のトランスクリプトミクスを行い網羅的遺伝子発現を比較したところ、非予防株投与群では、予防株投与群と比較して2倍以上発現が上昇している遺伝子群の中に炎症の存在を示す遺伝子が多く含まれていました。

 

 研究グループは、予防株と非予防株では、腸内で産生する代謝産物(低分子化合物)が異なり、その違いが感染死の予防効果の差となって現れているのではないかと考えました。そこで、ビフィズス菌投与直後(O157投与前)のマウス腸内容物(糞便)中の低分子化合物のメタボロミクスを行い、コンピュータで解析した結果、予防株投与群と非予防株投与群では代謝物産生パターンが大きく異なっていました(図2)。この代謝物産生パターンの違いを詳細に解析したところ、予防株投与群では非予防株投与群と比較して、ブドウ糖などの糖類の量が2分の1以下に減少していることが分かりました。ビフィズス菌は、糖を消費して短鎖脂肪酸(※11)を産生することから、マウス腸内容物中の短鎖脂肪酸の量を調べたところ、予防株投与群では非予防株投与群と比較して、短鎖脂肪酸の1つである酢酸の量が2倍近く高いことを突き止めました。酢酸は腸粘膜上皮の増殖促進や保護作用を持つとされています。ビフィズス菌を経口投与した後のマウスの腸粘膜上皮のトランスクリプトミクスを行ったところ、これを支持するように、予防株投与群では非予防株投与群と比較して、細胞のエネルギー代謝や抗炎症作用に関係する遺伝子群の発現が2〜3倍上昇していました。

 

 この予防株と非予防株における酢酸産生能の違いの原因を探るために、これらのビフィズス菌の全ゲノム配列を解読し、比較ゲノミクスを行いました。その結果、糖代謝に関連する遺伝子の中で、果糖トランスポーター(※12)遺伝子と予測される2つの遺伝子群が予防株だけに存在することを明らかにすることができました(図3)。予防株と非予防株をブドウ糖、あるいは果糖存在下で培養したところ、ブドウ糖存在下では予防株と非予防株で酢酸産生能に差はありませんでしたが、果糖の存在下では予防株だけが果糖を消費して酢酸を産生することができました。また、果糖トランスポーター遺伝子を破壊した予防株は、もはや感染死の予防効果を持ちませんでした。これらの結果から、同定した果糖トランスポーター遺伝子は、実際に果糖の取り込みに機能するトランスポーターを発現することが分かりました。

 

 O157感染による腸粘膜上皮の炎症所見は、大腸下部で認められます。ブドウ糖が利用できる小腸や大腸上部では、非予防株のビフィズス菌も腸粘膜上皮の保護作用に十分な量の酢酸を産生できますが、ブドウ糖が枯渇する大腸下部では、果糖トランスポーター遺伝子を持つ予防株だけが、果糖から効率よく酢酸を産生し、腸粘膜上皮を保護するため、O157による炎症や感染死を予防できると考えられます(図4)。

 

 

3.今後の期待
 今回の結果は、マルチオーミクス手法が複雑な宿主−細菌相互作用の解析に効果的であることを証明することになりました。今後は、無菌マウスのようなモデル系だけではなく、複雑な腸内細菌叢を持つ通常のマウスやヒトの解析に応用することにより、宿主−腸内細菌相互作用の全体像を明らかにしていくことが可能になります。また、プロバイオティクスの作用メカニズムを解析することで、より効果的なプロバイオティクスの開発につながり、健康増進や予防医学へ応用することで、社会への還元が期待されます。

 

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病原体の感染に対してIgA抗体が主体となって防御

ウイルスや細菌などの病原体は、呼吸器や消化管などの粘膜を介して感染することが知られています。
粘膜面では、病原体の感染に対してIgA抗体が主体となって、病原体である抗原と特異的に結合し、防御応答が誘導されます。
IgAは、病原体が粘膜上皮細胞に付着・定着することを阻止したり、病原体から生産される毒素や酵素を中和することによって、感染からの防御に貢献しています。
実用化が期待されている粘膜ワクチンは、病原体に対するIgAをいかに効率よく粘膜面で産生できるかが実用化の鍵となっています。

 

一方、粘膜面では特に感染のない状態でも、恒常的に大量のIgAが産生されています。のIgAの役割は、無数に存在する常在菌から粘膜を守りながらそれら常在菌と共生する、さらには病原体に特異的なIgAが誘導されるまでの数日間を補完する上で重要であると考えられています。

腸内細菌の数

最近、腸内細菌の同定法として、従来の培養法に加えて分子生物学手法が用いられるようになり、次々と新しい知見が明らかにされている。
以前より腸内細菌叢には多数の培養できない細菌が存在することがわかっていたが、16S ribosomal RNA を指標にした解析が行われるようになり、その全貌が明らかにされつつある。
その結果は驚くべきものであり、腸内細菌叢は少なくとも1800属、4万種程度の細菌を含んでいるという。(腸内細菌と脳腸相関 九州大学大学院医学研究院心身医学分野 須藤信行 より)

ビフィズス菌「LKM512」摂取による寿命伸長効果

ビフィズス菌「LKM512」摂取による寿命伸長効果を発見
2011年8月17日

 

 栗原新 元生命科学研究科特定助教、芦田久 生命科学研究科准教授、松本光晴 協同乳業株式会社主任研究員、辨野義己 理化学研究所特別招聘研究員らの研究グループは、プロバイオティクスの代表的菌種であるビフィズス菌の経口摂取により、マウスにおいて顕著な寿命伸長効果が得られることを発見しました。

 

 本研究成果は、8月16日午後2時(米国標準時間)に米国オンライン科学誌PLoS ONE で発表されました。

 

研究の概要
ビフィズス菌「LKM512」の経口投与により大腸内で増えたポリアミンの作用に起因する寿命伸長効果を、マウスを用いた試験により確認
腸内ポリアミン濃度を増やすことによる大腸の老化抑制や抗炎症効果が、寿命伸長につながることを示した、世界で初めての研究
メチニコフのヨーグルト不老長寿説に基づいた、腸内環境改善によるアンチエイジングの証明
 今回の研究は、プロバイオティクスのひとつであるビフィズス菌「LKM512」を摂取し、腸内細菌にポリアミンを生成させることで、老年病の原因である慢性炎症を抑えることが可能になるという仮説を検証するために実施しました。実験は、10ヶ月齢のマウス(ヒト換算:30〜35歳)を用い、LKM512投与、ポリアミン投与、生理食塩水投与の比較試験の形式で行いました。その結果、LKM512は大腸内のポリアミン濃度を上昇させることで、大腸のバリア機能を維持し、抗炎症効果を促進し、寿命を伸長させることが明らかになりました。一方、ポリアミンの経口投与でも一定の寿命伸長効果はあったものの、LKM512と比較すると弱いものでした。今回の研究成果は、カロリー制限以外の方法で、マウスの寿命伸長効果が得られることを証明した数少ない成果となっています。

 

 通常の環境下で飼育中の10ヶ月齢(ヒト換算:30〜35歳)のメスのマウスを3グループ(各19〜20匹)に分け、それぞれにビフィズス菌LKM512、スペルミン、生理食塩水(対照群)を週に3回経口投与しました。

 

 図1は、LKM512を投与したマウス群の寿命が対照群と比較して有意に伸びていることを表したグラフです。生存率が70%になる時点で比較すると、30%以上の寿命伸長効果が認められました。スペルミン投与群も同様の伸長傾向を示しましたが、有意ではありませんでした。つまり、ポリアミンを直接摂取するよりも、腸内細菌叢に産生させた方が効果的であることを示しています。

 

ビフィズス菌の寿命伸長効果

 

 

図1.LKM512、スペルミンの経口投与が生存曲線に及ぼす効果

 

また、LKM512の経口投与がマウスの外見、腫瘍および潰瘍発生に及ぼす影響を調べた結果です。対照群には、皮膚に腫瘍や潰瘍の発生が多く見られましたが、LKM512を投与したマウスには投与期間中ほとんど観察されず、毛並みも非常に良く、動きも活発でした。

 

プロバイオティクスの研究アーカイブ

1.腸内ポリアミン濃度を高める技術開発 腸内の善玉菌を増やす方法に関連します。